冊子・建築写真類聚「改造住宅」巻一(住宅改造博覧会出品住宅) ---2017/12/16/Sat

大正11年、大阪府箕面市の桜ヶ丘にて住宅博覧会が催されました。日本建築協会により9月21日から11月26日の期間、現地にて実際に住宅25戸が建てられ、大正時代の新たな生活様式や建築様式に即した住宅の改造を提唱するものでした。
この「建築写真類聚・改造住宅」はその住宅改造博覧会にて展示された住宅を紹介したもので、平面図・パース図・外観および内観写真をそれぞれ収録しております。改造住宅は巻一と巻二に分かれ、この巻一には12戸の展示住宅が収められています。
中身は綴じられていないページが50枚セットとなっており、価格表なども付属しています。
以下に中身のページを紹介していきます。「続きを読む」からご覧ください。

最初のページの序文の解説。

改造住宅博覧会会場の配置図です。
博覧会会場は住宅展示会場と博覧会本館や噴水・休憩所・音楽堂や映画館の設置されている野外会場の2つに分かれています。

「日本建築協会出品第一号住宅」平面図・パース図。
ミッション式の住宅。解説によれば一言にして言えば、何の色彩もなく普通日本瓦の屋根にコンクリート色の壁面を持った家だが、会場内総ての建物から抜け出たような軽い落ち着きのある情緒を漂わせているとあります。
この出展住宅は博覧会に先駆けて行われた第1回改良住宅設計図案懸賞募集において第1等当選をしたもので、
谷本甲子三の設計によるものです。

外観及び内部の居間。
木を生かした落ち着いた内装です。
この第一号住宅は現存しており、国指定登録有形文化財に指定されています。
また、現役の個人住宅でもあり、現在も内部が当時のまま残されるなどお住まいの方による努力によって維持されています。

「日本建築協会出品第号二号住宅」平面図・パース図。
コテージタイプの住宅。解説では上部壁面の柱形がうるさい・柱や窓枠の塗色が暗い・下見板張りの防腐剤塗りとの照応がいかにも混濁の感を興るのでせっかくの鮮やかな赤瓦も調和上何らの好果も成らないと割と酷評しています。

外観及び内部の居間。
居間は中々豪華な洋室です。現存せず。

「日本建築協会出品第三号住宅」平面図・パース図。
早良俊夫による設計。バンガロー式の住宅。
解説によれば、小じんまりと落ち着きのある住宅。屋根は青色セメント瓦で白壁に腰積の素焼き煉瓦と対照していかにも色の配合が良く、比較的鮮鋭に過ぎそうな色彩を厭味なく取り扱ったのは嬉しいと好評価をしています。

外観及び内部の居間と子供室。
この三号住宅は現存しており、現在も個人宅として使われており、外観も当時のままの姿で保たれています。

「日本建築協会出品第四号住宅」平面図・パース図。
コテージ式の住宅。解説では赤瓦の屋根にクリーム色の壁面はケバケバしい調子に堕ちいりそうであるのにそれが却って明るいぐっと引き締まった感じになるのは玄関周りを石積みにしたため、エレベーションのラインが良いので全てがまとまっているが階上老人室からのベランダの外観は少し重すぎる感じがするとあります。

外観及び内部の居間と食堂。
内部は結構すっきりとしたシンプルなデザインです。現存せず。

「日本建築協会出品第五号住宅」平面図・パース図。
コテージ式の住宅。複雑な屋根の住宅です。

外観及び内部の居間。
解説にある通り、白ペンキ塗りのバーゴラは良いアクセントになってます。現存せず。

「日本建築協会出品第六号住宅」平面図・パース図。
コテージ式の住宅。解説では鳥瞰的に見るといかにも真っ赤なものと想像されるが地上からはそれほどうるさくはないとあります。

外観及び内部の居間と食堂。
六号住宅は現存し、国指定登録文化財に指定されています。

「日本建築協会出品第七号住宅」平面図・パース図。
バンガロー式の住宅。解説では、日本化された極めて気持ちのいいもので、色彩の整った感じのいい外観と記載し、解説も長くかなりの好評価をしています。

外観及び内部の居間と主婦室。
窓が大きく採光を考慮されています。ストーブか暖炉っぽいデザインが良い感じです。現存せず。

「日本建築協会出品第八号住宅」平面図・パース図。
コテージ式の住宅。解説では濃厚なクリーム色の壁面で腰回りを人造石塗り仕上げとし軒先木部及び窓枠等を濃セピアに塗り上げ一寸鮮やかではあるが変化のある屋根形で割合ゴテゴテした感じが薄らいでいるとあります。

外観及び内部の居間と食堂。
椅子の模様が中々オシャレ。現存せず。

「竹中工務店出品住宅(A号)」平面図・パース図。
ドメスチックスタイルの住宅。ドメスチックスタイルというのは初めて聞きました。
自然な素朴の感じのする家とあり、金網張りスタッコ塗りの真壁で褐色瓦と相照和して穏やかな諧調を漂わせていると評価しています。

外観及び内部の居間と書斎。
解説では書斎は手狭とありますが、現在からみれば十分の広さでそもそも書斎がある自体立派なお宅ですね。
現存せず。

「竹中工務店出品住宅(B号)」平面図。
ドメスチックスタイルの住宅。前出のA号住宅と同じスタイルの様で解説でもそちらを参照することとあります。
なのでパース図は省略されています。

外観及び内部の居間と書斎。
居間の窓は大きく開けられ、十分な採光がなされています。現存せず。

「田村地所部出品住宅」平面図。
ドイツ近世式の住宅。田村地所部は住宅改造博覧会の桜ヶ丘住宅地の開発をした会社です。
解説ではドイツ近世式ではあるが屋根は日本式、玄関と化粧室浴室等の突出部がこの家の単調を破って心地よい感じを出しているとあります。パース図は元々ありませんが、その代わり内部写真が2枚になってます。

外観及び内部の居間と書斎。

内部の食堂。
外観は2階部分の外壁が良いアクセントになってます。
食堂は奥の窓側が畳敷きの座敷になっており、まるで飲食店のような感じになってます。現存せず。

「橋本組出品住宅」平面図。
バンガロー式の住宅。改造住宅巻一の最後の収録となっている作品で、住宅改造博覧会の目玉作品なのか外観写真・内部写真がそれぞれ2枚ずつで他の作品より2枚多い6枚となってます。解説は外観はすんなりとした気味よき調子を見せて居ますとあり、客間兼書斎は感じの良い部屋と評価してますが、婦人室と女中室は日本間で配膳室や台所と両極端にあり、何だか女の親しむべき仕事を投げ出しているようなそっけない感じがする、通路となるべき中間室がただの玄関広間という無駄な部屋になっているのが惜しいと批判もしています。

パース図。

外観。
勾配のついた大きな屋根と庭側の幅の広いテラスが目を引きます。

内部の客間・書斎・食堂。
客間兼書斎の壁紙は中々豪華な感じがします。書斎は庭側のテラスと直結しており、開放感があります。また来客者を他の部屋通すことなく直接招き入れる工夫がされてます。食堂はややこじんまりとしてますね。備え付けの椅子の背もたれが変わった形ですがこの形状だと背中が痛くなりそうです。

※サムネイル画像のクリックで拡大します。
改造住宅巻一収録分の住宅改造博覧会出品住宅の坪数・価格表と住宅の家具装飾諸般設備の価格表。
付属のものでいわゆる参考資料ですね。
住宅改造博覧会は好評のうちに終了し、展示住宅はそのまま分譲販売されました。博覧会終了翌年に新たに建てられた住宅もありました。
現在は展示された25戸のうち7戸、博覧会終了翌年に建てられた1戸が現存し、うち4戸が国指定登録文化財に指定されています。また、西側の博覧会本館や噴水・休憩室・映画館・音楽堂があった野外会場は博覧会終了後撤去され新たに区割りされましたが、東側の住宅展示会場はそのまま分譲されたため、博覧会当時の街並みや区割りがそのまま残されており、大正時代の洋風住宅が街並みとして残る全国でも貴重な住宅地であり、街並み景観保護のため2005年には景観形成基準が制定されました。
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